2024年度「チャイルドラインなら」活動報告

 チャイルドラインは、「子どもの権利条約」の理念に基づき、18歳までの子どもの「悩み」や「声」を、毎日午後4時から午後9時まで全国の69団体が聴いているボランティア活動です。「チャイルドラインなら」はそのうち、毎週木曜日午後5時から午後730までと毎週日曜日午後4時から午後630分までを担当しています。また、「チャイルドラインなら」では電話を聴く「受け手」に子どもたちの目線に近い大学生にも担ってもらっています。 

1,電話を受ける私たちの姿勢
 子どもたちは自分で考え自分で決定し自分で行動できる存在と考えています。
私たちは短時間子どもの話を聴くだけで、彼らの個性や周囲の環境を理解することはできません。従って子どもたちの相談に対して指示や説教は行わず、「子どもが思いを吐き出すのを待つ」→「評価せず聴く」→「理解する」→「共に考える」→「子どもの自己決定を待つ」というスタンスで取り組んでいます。

2,受信件数と電話内容
(1) 受信件数
  「チャイルドラインなら」が2024年度に受けた総受信件数は3,887(前年度3,786)で、そのうち会話が成立したのは810(前年度714)、会話不成立は234件、無言電話が2,763件あり、会話ができなかった割合が総受信件数の約75%を占めているのは全国の傾向とほぼ同様で、子どもたちが受け手の性別や特定個人を選択している可能性、電話をかけてみたものの話し出すのを躊躇している可能性、またいたずら電話の可能性も感じています。
(2) 成立した会話の内容 
  
心の状態や恋愛、進路など「自分に関すること」が308件で38%と最も多く、次に性行動や性器、自慰など「性に関すること」が223件で28%、学校での人間関係やいじめ、不登校など「学校に関すること」が174件で22%、家庭での人間関係や虐待、暴力など「家庭に関すること」が81件で10%などと続いています。少数ではあるものの、オーバードース・リストカットなどの自傷行為、虐待による自死念慮など深刻な相談内容もあります。性的マイノリティに関しての相談は増加傾向が見られます。

3,具体的な子どもたちの声
   以下は、プライバシーに配慮したうえで内容を編集した子どもたちの声の事例です。なお(   )内は学齢を表し、(小低)は小学校低学年、()は中学校、(中卒~)は中学校卒業以上を表しています。

 (1) 自分に関すること
・自分の感情がコントロールできず、すぐに悪口を言ってしまいます。自分は悪い子で自分が許せないです。お母さんに迷惑をかけています。(小高女)
・空気が読めず対人関係がうまくいきません。自分は聴覚過敏だし、だらしないと言われます。自分はADHDかも知れません。病院に行きたいけどお母さんはわかってくれません。自分に対する悪口を聴くと自分が悪いと思ってしまいます もう友達は必要ないと思います。(小高女) 
・小5で頸椎痛めて体が不自由です。(中男)
・チャイルドラインに何度も電話をかけています。人に話を聴いてもらっているうちに少しずつ自分のつらい気持ちが少なくなっていきます。(中卒~女) 
1人暮らしです。頭の整理がうまくできません。うまく説明できないけど悔しいし悩みが多いです。以前虐待を受けていました。でも子ども食堂のボランティアへ行っています。(中卒~女)  
・母子家庭です。母はシングルで私を生みました。母はあまり家に帰らず居たら居たで包丁を持ち出したりします。自殺未遂も経験しました。今から家を出て一人で生きます。もう怖いものはありません。(中女)
・布団から出られません。何にも興味がわきません。学校では自分でない姿を演じています。死ぬことを何とも思わなくなりました。精神科へ行った方がいいでしようか?(中卒~男)
・彼に理由なく、怒鳴られたり暴力をふるわれます。周囲の人は男と縁を切れと言います。理屈はわかりますが、彼に悪いようでそれができません。(中卒~女)
・人は皆言う事が違います。また時によって場合によって行動や発言が変化します。多様で困ります。人は「自分は自分で良い」言うけれど心が不安定になります。時たま消えちゃった方が楽かなと思います。(中卒~女)
・私は通信制高校を3年で卒業します。人は「3年で卒業できるのはエリートだ。」と言います。発達障害があって薬を使用中ですが、やめたら調子が悪くなります。放送大学へ行って、将来福祉の仕事をしたいです。(中卒~女)  

(2) 性に関すること
・包茎だと友人に笑われます。(中男)
・トイレで自分の性器が小さいとからかわれます。今電話で個人差があって当然と いう意見を聴いてほっとしました。(中卒~男)
・姉に対して性的な衝動を感じます。このままでは困った人間になるかも知れません。頭ではあり得ることとわかっていて理性でコントロールしようとしています。(中卒~男)
・性への興味が強くて、勉強もしないといけないからモヤモヤと焦りがあります。 ネットで映像を見て、『男女はこんなことをするの?』とショックでした。でも自分にも性欲があります。何だか中途半端な感じがします。(中男)
・「女性の下着を見たいのは正直な気持ち。でも行動に移すと社会的に問題になるよ。」などと整理して話してもらって、僕にも理解できる気がしました。変な行動はやめようと思います。(中男)
・マッチングアプリで知り合った男性3人にレイプされて財布を取られました。周囲の人には相談できません。(中卒~女)
・男だけど学校でズボンをはかないといけないのがソワソワします。普段はニックネームで呼ばれますが本名で名前を呼ばれると過呼吸になります。リスカしてしまいます。(中卒~男)
・男の体になっていくのが嫌で、自分が汚いように思います。射精する自分が嫌いです。本当は女性に生まれたかったです。自分は性同一性障害です。(中男)
SNSを通じて出会った年上の女性と性的関係を持ちました。その後別の女性に紹介され、写真や動画を取られました。拡散が心配です。(中卒~男)
・両親が離婚しました。以来新しい母と性的な関係が始まりました。罪悪感があってしんどいです。「やめたい」と「続けたい」の中間の気持ちです。(中卒~男) 

(3) 学校に関すること
・同じ班の男の子がこっちを見てひそひそ話をします。困っています。(小低女)
・明日、月曜日1時間目の数学が嫌いすぎます。でも今日はチャイルドラインで聴いてもらって明日は頑張ります。(中卒~男)
・女子10人ぐらいからいじめを受けます。親や学校に相談できません。夢にも出て来ます。いじめには誰も気づいていません。学校に行きたくないです。(中男)
・高校の入学式は行ったけど不登校です。さみしいです。フリースクールには行きたくありません。中退して仕事をするのも選択肢かも知れません。(中卒~男) 
・人間関係がこわいから学校へ行きたくないです。一人が楽だけど寂しいです。(中卒~女) 
・学校へ行きたいけど不安で行けません。生きているのが悲しくて気分が落ち込み、吐き気がします。夜も眠れていません。今日電話がつながってよかったです。(中卒~女) ・今は不登校だけど少しずつ慣れていくようにします。(小高女) 
・クラス替えしてから友人ができません。自分から話しかけていますがうまく行きません。一人はさみしいけど無理に友人を作っても気を使うだけです。『周りの子は自分に話しかけて欲しくないのだろうな』とか考えてしまいます。(小高女)
・中1から継続していじめられています。リスカの出血が止まりません。首と手首のリスカ跡は誰も気づきません。仕返ししようとしてうまくいかず、以降多くの人を敵に回すようになってしまいました。こんな性格の悪い自分がいやです。死にたいです。(中女)
・担任が不登校傾向の自分に冷たいです。「お前は高校に受からない」と言います。元はと言えばいじめが原因で不登校になりました。先生はクラス内の自分が好きな生徒には優しいです。(中男)
・クラスに自分に近づいてきてお尻をさわったり、勝手に僕のハモニカを吹く子がいます。学校に行きたくないです。(小低男) 

 (4)家庭に関すること
・幼い頃より大人から性的虐待を受けてきました。当時の記憶が鮮明でフラッシュバックします。母親は薬物で家を出て行ったままです。近所の人の通報により警察に保護されましたが、色々聞かれるのが嫌で逃げたことがあります。町で同じような経験をした仲間に出会ってうれしかったです。今日は気持ちが少し楽になりました。(中卒~女) 
・両親とも宗教にはまっています。自分は宗教に興味ありません。次の土日は宗教イベントに出て自分が発表しないといけないです。大学は家を出て通います。(中卒~女) 
・母はヒステリックで暴力をふるいます。お金がなくて部活もできません。食事も十分とれていません。(中女) 
・両親とも医者です。父は成績のいい妹と私を比較します。母はまだそうでもないので救われます。(中卒~女) 
・小学校時代に親から虐待を受けて別居が始まりました。家を転々としました。自分に自信がありません。本当は相手を傷つけたくないのですが、ストレスをかけられたらやり返すしかないです。(中卒~男) 
・母子家庭です。食事は自分で作ります。母は夜出て帰ってきません。友人の家と違います。うちはなぜこうなのですかねえ。(中男) 
・両親のけんかやめてほしいけど、怖くて言えません。(中卒~女)
・再婚の父が厳しく、時には暴力をふるいます。2歳の弟にも暴力をふるいます。受験は寮のある高校にします。でも残された弟が心配です。(中男)
・父子家庭です。スポーツブラを買って欲しいけど恥ずかしくて父に言えません。お母さんに言いたいことがたくさんあったのに死んでしまいました。(小高女)
・母子家庭です。姉は統合失調症です。母の暴力と宗教に困ります。経済的にも疲れています。死んでしまいたいです。(中卒~女)
・夫婦仲が悪くて、しかも自分に対する人格否定が多いです。一緒に暮らしていますが1年間口もきいていません。否定が続くと不安になります。死にたいと何度も思いましたが、そのたびに先生や友達に止めてもらいました。自立して精神科医になりたいです。不安になるたびチャイルドに電話しています。(中学女)
・母は私の人格を全面否定します。「嫌い、死ね、出て行け」と言います。事実でないことも父や姉に言いふらします。おかげで姉は母の味方になってしまいました。だいぶ慣れたけど、好きな母だからつらいです。(中女)

(5)ネットトラブル

・ネット詐欺に会いました。お金を二倍にするといって5000円払ったけれど返信が返って来ません。(中女) 
・ネットに友達の悪口を書き込んでしまいました。正直に謝りたいですが自分の行為だとわかったら、自分の未来は無くなってしまうかもと思うと怖いです。(中女) 

4,子どもたちの声から見えること
 電話をかけてくる子どもは、周囲に話を聴いてくれる大人がいないと思われます。私たちは、子どもを取り巻く社会的な環境の一部に「ナナメの関係」で居てくれる大人がいてもそれなりの役割を果たすことができるのではないかと考えています。
 子どもの声からは対人関係への不安、保護者の不理解、進路や生き方への迷いの声が多く聴かれます。特に気がかりなのは、性的な相談が多数寄せられていることです。これらは普段の関係の中では言いにくい事柄であり、顔が見えない電話だからこそ相談できるのだと思われます。

 5,電話の「受け手」について
  県内の各大学やネットを通じて、ボランティア活動に参加してもらえる方を募集したところ、大学生11名・社会人5名の応募がありました。彼らに向けて「受け手」養成講座を5日間開講し、4月から受け手の活動を始めていただいた結果、現在の受け手数は15名となりました。受け手の総数に大きな変化が見られないのは、新しく受け手になられた人がおられる一方、1・2期生の受け手の中に就職する大学生が相当数含まれたためです。
  「受け手」をサポートする「支え手」は、教員や教員OBのほか電話相談員経験者や元受け手の合計6名が活動しました。
社会人は子育てを含め豊かな経験の中で子どもの話を聴き、大学生は子どもに近い目線で話を聴いています。経験者を含む受け手数の増加は。特に活動を引退された大学生の多くからは「チャイルドラインで良い経験を積めました」と述べています。社会人となっても常に子どもの側に居続けてくれることでしょう。
 また、本法人の活動目標に「社会的情報発信」があります。経験者を含めて、受け手は直接子どもの声を聴くことができる立場です。このような経験を積まれる方の数が増加するのは、社会への情報発信が少しずつ進んでいるとも解釈しています。

5,決算
 本年度は奈良市・奈良県からの補助金、各団体からの援助金に加え、クラウドファンドに取り組んだ結果、黒字を確保できました。 

7,今後の課題
1) 奈良県の子どものチャイルドラインへの発信件数は、奈良県と同程度の人口を抱える近隣県の1/10程度です。この数は本県内のチャイルドラインに対する認知度の低さを物語っています。本年度は新たにフリースクールに加えて、各地教委の教育支援センターにもミニカードを配布しました。また、各市町村の公民館を中心にポスターの掲示を依頼しました。今後もカード配布やポスター掲示に取り組むとともに、各報道機関への記事依頼・講演会やSNSを利用した広報活動も継続します。受け手を経験していただく方の数を増やすことにも継続して取り組みます。

2)無言電話の多さは、子どもたちにとって日頃使わない電話に対するハードルが高く、チャットなど文字によるコミュニケーションの必要性を示唆しています。新年度後半にはチャット相談の実施を目指します。
3)厳しい収支状況を改善するため、会員を増やすとともに、クラウドファンドを含む寄付集め、民間団体などからの助成金の獲得に努めます。
4)電話を受ける「受け手」の数は少しずつ増加していますが、活動する「支え手」の数は減少傾向にあります。「支え手」の確保が緊急の課題です。